新型コロナウィルス感染症対策で登園自粛要請が出された時、震災などの自然災害発生時の経験から私が心配していたのは、子どもたちのストレスと、保護者の皆さんのストレスについてでした。活動が活発な子どもたちは、家の中にいるだけでは十分な発散が出来ず、ストレスを溜めるでしょう。発散したいために「いらんこと」をして叱られるかもしれません。それもまたストレス。
親御さんにとっては、子どもとゆっくり過ごせると思える時は良いですが、四六時中子どもと一緒ということが負担になる場合もあります。あるお母さんは、「保育士と母と妻と仕事人であることを全部いっぺんにやらされている」と嘆いていました。そんな中では、ついつい怒りっぽくもなるし、子どもが「いらんこと」をすれば、いつも以上に叱りつけるかもしれません。それもまたストレス。
海外では、早々から家庭内暴力や虐待が警戒され、実際その報告も出てきました。感染症を恐れた登園自粛が、虐待を誘発してしまっては元も子もありません。
似たようなチグハグなことが一般的にも言われていました。自粛が強まることで経済的に行き詰まり、自死する人が増えるのではないかと。
そのような中、確か連休中だったと思いますがTVニュースで、50人規模のBBQを企画した人へのインタビューを聞きました。主催者は「もう何人もの友人が自ら命を絶った。だから、繋がりを確認し、励まし合いたいんだ」とその理由を語りました。当初は10人くらいでやるつもりが、噂を聞きつけて人が集まり50人になったとも。ついでに警察や保健所に「自粛とは何か?衛生的に問題になるか?」などを問い合わせて、そのBBQが違法ではないことを確認しておいたというのを聞いて、感心したのでした。
外出自粛の呼びかけは、命を守るためのものでしたが、経済的困窮や、人との交わりの減少から孤独へと追いやられ、悲しい結果になってしまったケースもあったでしょう。このBBQの主催者は、単なる思い付きでBBQをしたのではなく、何が何でもそうしなければならないと思っていた自粛生活に、何が一番大切で、本当に優先すべきなのは何なのか、それを自分たちで考え判断したい、という意思を表し、社会に一石を投じたように感じました。
一方、自粛生活のために若年層の自死は減っているというニュースもありました。登校や出社が減り、いじめに合わないとか、対人ストレスが減ったためだというのです。驚きましたが、なるほど、そういうこともあるんだなと、こちらは複雑な心境でした。もちろん、そんな思いをしなくても良い関係作りや、一人ひとりが尊重される社会であるべきとの思いも新たにしました。
所詮、私たちは物事をある一面からしか見ていないことの方が多い、ということを思い知らされた気分です。同時に、私たちは自分のフィルターにかけて物事を判断するものだということを確認させられた気がしました。
その自覚をしつつ、私たちは子どもたちの育ちに何が必要で、何が喜ばれるのかを考えながら、その時々の情報を吟味して、保育に生かしていきたいと思うのでありました。
園長:新井 純