数年前、後輩牧師(以下パパ)が里親のホームを開設しました。はじめは自宅で1人2人を預かっていましたが、要望が多かったので思い切ってホームを作りました。何らかの事情によって親が育児できない、もしくは育児を放棄された子どもたちがそのホームに預けられました。
パパの方針は、決して「叱らないこと」でした。なぜなら、ホームに預けられる子の多くは、虐待やネグレクト(育児放棄)によって必要以上に怒られたり暴力を振るわれたりし続け、自己肯定感が極めて弱くなりがちだからです。
子どもは「育てられたように子育てをする」と教えられたことがあります。つまり、多くの場合は自分の親を真似て子育てをするということです。そして、子育てばかりでなく、対人関係などを含め、社会生活の参考にしていくのが自分の親ということです。最も身近で見ている大人なのですから、当然です。だとすると、子どもがいつも怒られたり殴られたりしていたら、自分も不満を抱いたり相手に何かを伝える時に、感情に任せて怒ったり暴力を振るっても良いと思い込んでしまいます。でも、それは間違いです。少なくとも、簡単に暴力に訴えることは避けなければなりません。そこで、パパは「決して叱らない」ことを心に決めたのでした。
もちろん、何でも好き放題にさせたわけではありません。悪いことをしたら、それはしてはいけないこと、なぜしてはいけないのかを丁寧にさとしました。万引きを繰り返す子どもには、何度も一緒にお店に謝りに行ったそうですが、そういう場合でも叱ったり見放したりすることはしませんでした。
ある日、引き受け手がおらず転々としていた女子高生をパパは引き受けることにしました。その子が問題行動を起こしたので、パパは「何が良くて何が悪いのか、お部屋できちんと考えなさい」とさとしました。ところが、その子は部屋に戻るなり児童相談所に電話し「暴力を受けて部屋に監禁されている」と言ったので大騒ぎになりました。
長い調査の結果、これは少女の狂言で、パパには責任がないことが明らかになりました。しかし、行政は「もう子どもは預けない」と信じられないような決定を下し、パパはホームを続けられなくなりました。他の里親さんのところに散り散りにされた子どもたちは、大いに不安になりました。他の里親さんたちもとても良い方々でしたが、子どもたちは「いつパパのところに帰れるの?」と半年以上経っても尋ねたそうです。
パパは他の事業を興し、その利益を用いて「子ども食堂」を開催しました。キッチンカーを複数誘致し、ちょっとしたお祭りのように盛り上がりました。つい先日4月27日のことです。
パパには夢があります。行き場を失った子どもや大人が集い、みんなが笑顔で暮らせる牧場を作ること。この調子だと、夢が現実になるのもそう遠くはなさそうです。 園長:新井 純